平成20年度は、印影鑑定書を収集し、鑑定人の用いる鑑定手法を分析した。印影鑑定では従来から鑑定資料の印影と対照資料の印影とのパターンマッチングが用いられるが、現在においても鑑定人はパターンマッチングを有効な手法として用いていた。ただし、日常生活で主に用いられている大量生産の印顆については、識別不能の結果が多かった。このため、鑑定対象の印影が大量生産の印顆かどうかを識別することが重要である。鑑定人が大量生産の印顆かどうかを判断する手がかりについて調査したところ、文字デザインを手がかりに用いていることがわかった。そこで、大量生産の印顆どうしの異同識別が可能かどうか、市販のフォントと大量生産の印顆に用いられる文字が識別可能かどうかについて、パターンマッチングにより検討した。大量生産の印顆の異同識別には、大量生産による複数の印顆により印影を作成し、パターンマッチングを行った。印顆間の印影パターンの差と同一印顆間の印影パターンの差には有意味な差が見られなかった。次に、市販フォントと大量生産の印顆の文字のパターンマッチングを行ったところ、大量生産の印顆の一部については、印面の文字と市販フォントの間に有意味な差がなかった。このことから、鑑定人が文字デザインにより大量生産の印顆かどうかの識別を行うことには意味があることがわかった。ただし、市販フォントには、手書き文字を基にデザインされたものもあること、鑑定人は鑑定資料と市販フォントの比較を行わずに市販フォントの判断が行える事実から、鑑定人が市販フォントと手書き文字を識別する過程の分析が必要であることがわかった。
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