研究概要 |
本年度は,運動学習に関する理論的考察と予備実験を行った。理論的考察の成果の一部は国際会議において発表した。予備実験としては,起き上がり行動に関する実験を行った。ヒトデの起き上がり行動については,先行研究において,各腕の役割が特化するタイプの学習は見られないという報告がなされているが,こうした先行研究は,「棘皮動物も行動を学習することができるか?」という比較心理学的動機に基づいており,学習できない理由にっいてまで分析してはいない。そこで予備実験では,イトマキヒトデの起き上がり行動の観察から,その運動学習能力に関する示唆を得ることを目的とした。実験の結果,以下のことが明らかになった。裏返しに置かれたイトマキヒトデは,管足が基質との接触を失ったことで起き上がり行動を開始する。起き上がり行動は、管足を上方に伸ばす運動か,感覚器官として使用される腕先端の管足を振り回す運動によって,接触可能な基質を探索することで開始される。5本の腕のうち,早い段階で基質との接触を回復したものは,歩行運動を開始し、その腕が進むことで,体全体の回転がスムーズに行われる。起き上がり行動の最終段階において、歩行を先導する腕の管足の活動が活発になると,次の試行ではそのような腕の管足は上方に伸び,基質の検知が相対的に遅くなるものと考えられた。このように,起き上がり行動においては,ある試行において先導的な役割を果たすと,次の試行では起き上がりが遅くなり,結果的に起き上がり行動実験においては,運動学習が起こりにくくなっていることが示唆された。本年度には,より詳細な行動実験も予定していたが,7月から12月にかけて飼育個体間に原因不明の病気が流行してしまい,これ:以上の実験を行うことができなかった。
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