研究概要 |
ヒトデは中枢神経系を持たないため,個体の運動は5本の腕とそれらに付属する管足と呼ばれる多数の歩行器官の自律的運動の相互作用を通じて自己組織化される.そうした運動の特徴として,各々の運動器官の役割が臨機応変に調節できる,高い融通性がある.その一方で,形成された個体全体としての運動様式が維持されにくく,これまでに,ヒトデの運動学習能力について明確に示した研究はほとんどない.本研究では,自己組織化された運動様式の持続性について調べるため,実験環境において運動の自己組織化が観察されやすい状況として,ヒトデを裏返して水槽の底に置くと見られる起き上がり行動について実験・観察を行った.その結果,起き上がりの試行を連続して行っても,起き上がり時間が短縮や各腕の役割分担の出現などの,運動学習の存在を示唆する現象は見られなかった.そこで,起き上がり行動において経験による改善が見られないという事実について,コンピュータ・シミュレーションによって検証した.ヒトデの起き上がり行動では,起き上がりに際して最初に基質との接触を回復し,歩行運動を行って身体全体を引き起こす役割を果たす先導腕と,先導腕の起き上がりによって基質との接触を一時的に失ってしまう追従腕とが観察される.これらの腕間の役割分担は,起き上がりに先立って決定されているのではなく,起き上がりの途上で自己組織的に決定されていくものである.起き上がり行動をモデル化してシミュレーションを行った結果,個々の腕の活動性はある程度の時間にわたって持続するため,起き上がり開始時に腕の運動性を不均一になることはあるが,そのような不均一性は,運動の時間発展の複雑性によって起き上がりの途上で消失してしまうことが明らかになった.この研究成果は,第13回国際棘皮動物学会において発表し,また,論文を執筆し査読付の論文集に投稿した.
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