研究概要 |
(1)「多点間の同時情報伝達」に関して,高等動物が並列的機能を実現する際に脳内において異なる領野どうしがあたかも多チャンネル同時に「通信」という情報のやり取りと「コミュニケーション」という内容の理解と処理を含めた交互の作業が渾然一体となって行われているように見える。すなわち一団の神経発火が周囲に送り出され,神経活動のカオスの海に消えて行くように見えて,時空間的に遠くはなれた位置とコヒーレントに同期しながら通信と情報処理が為されている点が「一見不可思議に見える」という状況である。それが多チャンネル同時に行われており,そのメカニズムの解明と機能シミュレーションを用いてその機能を具体的に再現を試みる。モデルは19年度に考案されており,20年度にはシミュレーションのためのプログラム作成とその試験的実行,およびプログラムのバグの発見と修正を行い準備が終了したので,本年度は本格的な計算機実験を行った。20×20=400個の神経細胞ネットワークの例について実施したところ,まだ2点間の段階ながら,送信群から送られた周期信号がカオスの海にいったん消えた後,受信群の神経によって比較的強い相関をもって信号が受け取られていることがわかった。内容を速報の形で物理学会において報告した。 (2)「身体制御」に関しては,高等動物の筋肉による運動制御は該当する脳の運動野の神経細胞数に鑑みるに何桁も異なる大冗長度を有した制御である。その意味と機構はいまだに明らかではないが,発見論的アイデアのもと,神経回路網に埋め込んだ少数個のアトラクターに典型的な身体運動を対応させたcodingを採用し,更にそこにカオスを導入する。それにより複雑な身体運動を発生させそれを適応的に制御を行い,カオスの機能的関与を具体的に示す機能シミュレーションを行う。本年度は昨年度の肩から肘までの自由度の場合に加えて手首までの自由度を加えた場合について機能実験を更に継続し,かつ運動軌道上に障害物が存在する場合にカオスを用いた回避運動の機能実験を行った。結果はまだ試行の段階ながら良好なものが得られ,電気情報関連中国支部連合大会において発表した。 (3)二輪自走ロボットに対して実際に迷路を設定し,機能シミュレーションに基づく制御機構を組み込み,ハードウェア実装を行った遍歴ロボットを試作して迷路求解を行わせる実験を継続する。該当二輪自走ロボットのCPUは神経回路網を搭載できる性能規模ではないため,電磁波による信号の転送・受信を介してパソコン上にある神経回路網におけるカオスを用いて制御する試作機とした。1号機による実験が成功し,更に別途ターゲット用の自走ロボットを作製し,両者ともに可動な状況下での追尾実験を行う。また二足歩行ロボットを導入して歩行動作を実現させ,身体制御へのカオスの機能実験を開始した。実験の結果,二号機が完成し,設計どおりの機能を実現させることに成功し,論文誌に発表した。二足歩行ロボットにはカオス性を持たせた歩行をさせること,および階段を上る動作,障害物をまたぎ越す動作,の例を得ることができた。 (4)半導体技術を駆使して「量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)」を用いた能動双安定素子を作製し,それを二段に組み合わせて神経発火状のパルス発振をする素子を二次元上に集積的に配置し神経回路網の動作をさせるチップを試作を検討し理論的な評価を行う。それを集積させた素子結合系の作製を検討する。本年度は徳島大学・三菱電機・大阪府立大学・岡山県立大学の研究者と共同研究を開始し,素子の基礎構造となる結晶の作製を行い,さらにデバイスプロセスの試行を行い素子を得ることができたがパルス発振動作は次年度持ち越しとなった。 連携研究者:井須俊朗(徳島大学・工学部教授),溝口幸司(大阪府立大学・理学部教授),福嶋丈浩(岡山県立大学・工学部准教授
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