古文書の文字領域内の墨の濃さの変化から運筆に関する特徴抽出アルゴリズムの研究を実際のシルクロード由来の文書を対象に検討を進め、その有効性を検証した。ここでは、文書の媒体である古代紙の性質を精査し、紙の繊維の走向と紙漉きにおける繊維の分散の仕方によって表面的に計測できる高階調画像のデータの補正が必要となることを、実験によって明らかにした。計測(高階調画像撮影)において、古文書表面の反射計測だけでなく、均質なバックライト照明による透過光計測データも併せて利用することにより、紙の性質に左右されない墨書きそのものの特徴を把握できることを示した。この手法は、紙だけでなく絹本などの媒体に対する墨書解析にも十分適用可能なことを平成19年度に続き、世界最古の世界地図である中国(元:1402年)由来の地図上の劣化文字(文字領域は、墨書および他地形図は染料)の濃淡解析にも適用し、鮮明な墨書文字復元と、絹本の織目解析からの幾何的補正による精緻な原典画像の復元結果を得た。 高階調画像の撮影においては、平成19年度までに確立した国際標準の方法である、デジタルカメラバックによる大判デジタルカメラによる高精細記録(400DPI以上)撮影と、RGB各16ビットによる高階調表現および標準カラーチャートによるCMSの適用により均質な画像記録が日本を含む6ケ国による高階調画像DB(国際敦煌プロジェクトデータベース:略称IDP URL http://idp.afc.ryukoku.ac.jp/)として公開され平成20年度末においては22万点以上の高階調画像の集積が行われ、本研究課題において得た墨書に関する特徴抽出アルゴリズムの適用とその有効性の実証を進めた。また日本側の画像データにおいては、バックライト照明による撮影データも併せて公開し、紙の繊維・漉き方に大きく依存する墨書解析の方法が大きく改善でき得る事を示した。
|