研究概要 |
本研究は,推論と判断に関する適応的ヒューリスティックを実験的・計算論的に明らかにし,多様な現象を統合的に説明する理論的枠組みを構築することを目的として現在進行中である.研究内容は,因果帰納モデルの発展的展開(研究I),推論と判断の統合的説明(研究II),概念構造とシンボル操作(研究III)の3つに分割される. 今年度は,まず,研究Iについては,われわれの提案する二要因ヒューリスティックモデルが,複数の原因が関与する場合にも適応的に機能するかどうか,実験により検討した.その結果,従来のモデル(ΔP規則,パワーPC理論,Rescorla-Wagnerモデル)のいずれと比較しても,高いパフォーマンスを示すことが明らかになった.研究成果は,日本心理学会のシンポジウムで発表した.現在,論文にまとめている最中である. 次に,研究IIについては,確率的アプローチを新しい課題に適用した.具体的には,演繹推論課題として有名な定言的三段論法課題を確率的観点から定式化して,新しいモデルを構築した.過去の実験結果を用いてモデルを評価したところ,かなりよいフィットを示した.ただし,一部の型のサブ問題に対してはフィットが悪いため,現在,さらなる改良の最中である. 最後に,研究IIIについては,主にこれまでにわれわれが実施してきた推論の確率的アプローチの研究成果を展望し,対称性推論の観点から再解釈し,今後の研究方向に対する提案を提示することができた.研究成果は,雑誌『認知科学』に掲載された.
|