研究概要 |
年金基金や保険会社のように特徴的な負債構造をもつ場合の資産運用、金融機関におけるデリバティブを含む市場性資産のリスク管理では、将来の給付、保険金の支払いに備えた最悪シナリオを避ける頑健な長期投資戦略の策定とその効率的計算方法の確立、選択したリスク管理・計測手法の妥当性、モデルリスクの考察が実務的,社会的観点から重要である。本研究では、以下の3点、(1)ロバスト・ポートフォリオとその年金、保険等への応用、(2)多期間ポートフォリオ問題の近似解法とロバスト性、(3)デリバティブ資産のマーケットリスク計測におけるモデルリスク、に焦点を当てて研究を進める計画を立てた。(1)に関しては、長期運用で重要なインフレリスクを考慮し、特に、わが国の特異な金利市場(ゼロ金利とその解除、そして物価連動国債の発行された債券市場、デフレ経済下での実質・名目金利形成等)に適合した名目、実質金利の期間構造を構築し、明示的に連続時間のロバスト最適化問題の中に取り込んだ。そして、株式、債券、物価連動債からなるポートフォリオのロバストな最適投資戦略の構築方法を研究し、その研究成果を日本ファイナンス学会で報告した。更に、年金基金のオールターナティブ投資の一環で、ヘッジファンド等に投資することがあるが、そのリスク・リターン構造を明らかにするため、ヘッジファンドの運用手法の一つであるコンバージェンス・トレーディングに関する理論研究を行った。上記と同様のロバスト投資戦略の枠組みで、最適投資戦略の構築に関して、スプレッドの収斂先が完全に観測可能とした完全情報の場合とそうではなく観測不可能とした部分情報の場合とでそれぞれ分析し、日本金融・証券計量・工学学会でその研究成果を発表した。 (2)に関しては、Brandt=Santa-Clara(2006)による多期間ポートフォリオ問題の数学的な定式化と近似解法の可能性について、期中の消費を考慮した場合の理論的研究を進めた。今年、その成果を纏める予定である。 (3)に関しては、研究分担者の一人が平成19年10月に民間に転出し、研究分担者からはずれたため、(3)の研究の進展はなかった。しかし、(1)の研究成果から、デリバティブのモデルリスクを考慮したプライシングに関して、効用関数を用いたロバストな確実性等価原理を用いた評価が可能であることがわかってきた。
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