平成19年度の研究成果を発展させて、平成20年度には、ロバスト・ポートフォリオとモデルリスクに関する計量モデルに関して以下の4点の研究成果を挙げた。 (1) 債券ポートフォリオ運用への適用:イールドカーブ上の複数個のミスプライシングが解消することを利用する連続時間の動的ロバスト・コンバージェンス取引戦略の構成法について研究。アフィン型の確率金利モデル、相対エントロピー、確率微分効用、Bellman方程式などの概念を用いた。(2) 流動性リスク:投資家、マーケット・メーカーの探索・交渉理論に基づく証券の流動性リスクプレミアムに新たにモデルの不確実性を考慮した計量モデルを提案した。(3) 代理投資と直接投資問題:年金基金や投資信託、ヘッジファンド等の運用は、投資家(委託者)とファンドマネージャー(代理人)との間の契約に基づく代理投資であり、両者の情報の非対称性により、エージェンシー問題を抱えている。リスク鋭感的確率制御で使われる目的関数を、モデルの不確実性を考慮したロバスト版に拡張し、プリンシパル-エージェント理論の枠組みで、ファンドマネージャーの最適報酬や、平均回帰性のある危険資産に対する最適投資戦略を研究した。(4) managed portfolioの考え方を用いて、多期間ポートフォリオ問題をunconditionalな問題で近似できることを示した。unconditonalな問題とすることで、資産収益率の動的変化をモデル化する必要がなくなるため、モデルリスクの軽減につながる。現在、論文をまとめている最中である。 その他、リスク計測手法の啓蒙のため、Duffie and Singletonの単行本の翻訳「クレジットリスク」を行った。
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