研究概要 |
蛋白質の占有体積揺らぎの動力学的解析 myoglobin(Mgn), β-lactoglobulin(βLgn), lysozyme(Lzm), cytochrome c(Cytc), ribonuclease A(RnsA)の5種の蛋白質水溶液について分子動力学模擬計算(MDS)を実行し,得られる占有体積の時系列データの解析から,以下の結果を得た: (1) 分子体積の揺らぎの自乗平均値から,各蛋白質分子の固有圧縮率を推定すると,Mgn,βLgnが最も柔らかく,RnsAが最も固い。この結果は,加圧MDSの結果と符合する。 (この結果の前半部は,既報している:J. Chem. Phys., 125, 054903-1-13(2006)) (2) 占有体積揺らぎのパワー・スペクトルS(f)は,f<0.03THzの低周波域では1/fに,f>5THzの高周波域では1/f^2に近似的に比例する。 (3) S(f)は,中間の0.5-1THz(10^12Hz)の周波数域に,低温のガラス性物質で観測されている,所謂Boson peakに相当する振動的な体積揺らぎを示すことが見出された。 (4) (3)の振動的な揺らぎの成因の解析から,この振動帯は,多数の要素振動モードで構成されていること,各振動モードは,分子内で隣接する原子や残基が,局所的なポテンシャル・エネルギー極小位の近傍で短寿命の振動運動を行うことに因ることを明らかにした。 (5) 低周波数域での構造揺らぎは,分子内部での原子や残基の拡散的な揺動運動に起因し,水和水の存在により助長されることが確認された。(以上の結果は,論文執筆中である)
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