研究概要 |
歳をとるにしたがって脳神経細胞の数は減る一方であると最近までは信じられていた.本研究の目的は,記憶の情報処理に深く関わっているとされる海馬において発見されている新しく生まれた細胞が,記憶の情報処理にどのように貢献しているか,その情報論的意味について研究することにある.平成20年度において得られた成果は以下の通りである. 連想記憶モデルにおいてスパース符合化された興奮パターンを記憶させた場合,記憶容量が飛躍的に増大することが知られている.プリンストン大学のJ. J. Hopfield教授が最近発表したスパース符合化された連想記憶モデルは,想起の成否が容易に判別できる画期的な機能をもっている(Neural Computation, vol.2,pp.1119-1164,2008).このモデルは,構造をもつ興奮パターンを0,1の二値のみをとる結合係数の中に埋め込み,区分線形関数をニューロンの活動度関数として利用している点が従来の連想記憶モデルとは異なる.結合の重みを2値とした点は海馬の神経回路の特性を反映させたものである.この3点の変更点のうち,どれが本質的であるか明らかにするため,コンピュータシミュレーションによる解析をおこなった.その結果,もとの連続値連続時間モデルを単純な2値離散時間モデルに簡略化しても,想起の成否を容易に判別する性質は維持できることが分かった.しかし,3点の変更点がすべて本質的であるという見方もできる。海馬のモデルとしての妥当性を含め,今後,その詳細を分析する予定である.これまでの研究成果については国際誌等において発表した.
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