視覚刺激によって明確な視運動反応が見られたテザード飛行状態下のミツバチに対して前方4カ所に設置したスピーカーから音刺激を提示し、これに対する定位行動を計測した。その結果、白色雑音、飛翔音を提示した場合に比べ、収穫ダンス音を提示した場合には有意に音源方向に定位することが示された。収穫ダンスは260Hzを基本周波数とする振動音であるが、この音を発生しながらミツバチが進む方向はダンスの度にほぼ一定であり、この進行方向が餌場の方向に対応していることが示されている。振動音を発生しながらミツバチが進む方向を一定にするためには、ダンスをした後スタート地点に戻る必要があり、その時には振動音を発生させない。このことからダンス音には、一定間隔で休止期間が存在する。ダンス振動音を連続振動音として与えた場合と途中に休止期間を挿入して与えた場合について比較したところ、休止期間が存在する音源に定位が見られた。このようにダンス音への定位行動は、刺激強度、周波数成分だけでなく、刺激音のコンテキストに依存していることが示唆された。さらに、巣箱内におけるミツバチの行動状態に関してダンスが及ぼす影響を計測、評価するために、ムービー画像における濃淡レベルの時間変化を時系列信号として扱い、周波数成分毎に時間変化特性を抽出する解析アルゴリズムを考案した。今後、刺激受容と行動変容について、拘束状態での計測に加えて、より自然な状況下での刺激に対する反応に関する実験を進めていく計画である。
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