研究課題/領域番号 |
19500259
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
藤井 宏 京都産業大学, 工学部, 教授 (90065839)
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研究分担者 |
津田 一郎 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (10207384)
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キーワード | 知覚、認知の脳内プロセス / 脳における状態遷移 / 大域的シンクロニー / マイネルト核 / 皮質求心性アセチルコリン / 「注意」の不全 / 幻覚 / レビ小体型認知症 |
研究概要 |
本研究は、脳の知覚、認知の脳内プロセスに対して、脳における状態遷移とそれに伴うアトラクター・ランドスケープの過渡的な形成と不安定化という鍵概念の下に、神経生理学、認知神経科学の知見とも整合しつつ、力学系理論の立場から新しい枠組みの建設を目指すものである。 初年度において、概念的な枠組みに関する理論的な整理、最近の実験的知見の再検証をおこなった。 一つの焦点は、知覚、注意時における脳内の皮質レベルにおける状態遷移と大域的シンクロニーの機序に関するものであり、ボトムアップおよびトップダウンの活動電位によるグルタメート投射という従来の見解に加えて、その過程における前頭前野、マイネルト核経由の皮質求心性アセチルコリンの役割に関して、考察をおこなった。(この過程は、睡眠、覚醒調整系としての脳幹アセチルコリン系とは機能的に異なる。)このマイネルト核経由の皮質求心性アセチルコリンは、(おそらく、ムスカリン性受容体に関連して)、「注意」の不全のみならず、鮮明な視覚的幻覚を伴なうレビ小体型認知症との関連において注目され、本研究における知覚、認知の脳内機構への示唆を与える可能性がある。 しかしながら、マイネルト核経由の皮質求心性アセチルコリンの皮質状態遷移への役割を示唆する明確な実験的データの存在に係わらず、皮質6層への投射構造、GABA系投射の役割、さらにニューロン・レベルでのアセチルコリンへの反応などにおいて、基礎的な実験的データの欠如、あるいは重大な不一致がある。 現段階において、皮質6層構造内でのアナトミーに基づきつつ、機能に関する知見を含んだ統一的な皮質モデルの構築には大きな困難がある。また、アセチルコリンの影響下における個別ニューロンのレベルにおける状態遷移の構造など、数理的モデルの研究も今後の研究課題となる。
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