研究課題
競合解決課題を遂行しているサルのニューロン活動を記録する実験によって、前頭前野の後内側部(以下、pmPFCと略す)に上肢の運動に関連した領域が状況依存的に出現・消滅することを発見した。pmPFCのニューロン群は、競合・無競合試行が混在する条件下(mixed condition)では上肢の運動に関連して活動するが、課題の全試行を無競合試行だけにしても、競合試行だけにしても(single condition)活動しなくなる。こうしたことから、pmPFCは競合ありとなしの場合で異なる行動戦略を随時使い分けなくてはならない時に行動制御に参加すると考えられ、"反応選択の仕方を選択"するという、いわばメタなレベルでの行動制御に関与している事が窺われる。今年度は、こうした今までの所見の蓄積を踏まえて以下の3つの観点からデータの再解析、及び発展研究を実施した。(1).認知負荷依存的な神経回路網の最適化:上記の様にpmPFCは課題条件によって動的に活性化・不活性化する。そこで、そのpmPFCからの入力を受ける皮質運動野、具体的には前補足運動野、補足運動野(以下、それぞれpre-SMA,SMAと略す)の神経回路がどのように最適化されるか、neuron dropping analysisと呼ばれる手法によって解析した。その結果、SMAにおいては上記single conditionではmixed conditionに比べて、より少数のニューロン活動で正確に正解となる反応を表現できている事が明らかとなり、認知条件によって動的に神経回路網が最適化されている証拠が得られた。(2).カオス理論によるニューロン活動の解析・モデル化:東京大学・合原一幸教授らとの共同研究によりpmPFCニューロンのスパイク活動がカオス理論で説明できることを見出した。このことは初期状態の僅かな違いによって未来の状態が大きく変化することを意味し、一つのニューロンが多面的に情報を表現しうる可能性を理論的に示した。(3).冒頭の如くpmPFCは競合の有無によって反応選択の仕方を随時使い分けるプロセスに関与していると考えられる。そこで予め競合の有無をサルに告知しておけばpmPFCは活動しないだろうとの予測に基づいて追加実験を実施し、前期の仮説を補強する結果を得た。
すべて 2010 2009 2008
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件)
Neuroscience Research 65
ページ: 126-129
Neural Engineering
ページ: 104-107
ページ: 96-99