本計画では、文字言語学習とその神経解剖学的基盤に関して従来の知見より詳細に検討することを目的として、平成19年度から2年間の予定で研究活動を開始した。実際の研究の手法としては、健常人を対象とした機能的磁気共鳴画像(fMRI)、経頭蓋磁気刺激などの非侵襲的脳機能計測法、脳損傷患者を対象とした神経心理学的手法を相補的に組み合わせることで、言語視覚認知の神経機構と、学習に伴うその可塑性変化の程度について多角的な検討を試みた。まず、日本語を用いたfMRI研究では、先行刺激と標的刺激との間の意味的関連性による被験者の運動遂行反応への影響においては有意な反応促進効果を確認できたほか、被験者が意識的に遂行している認知課題の性質により、意識下で潜在的に起こる視覚認知過程に影響することを、神経領域間の機能的連合強度の変化として明らかにして、国際誌に発表した(Nakamura et al. 2007)。また、言語認知に関わる視覚神経系の機能構築の言語間比較を目的とした研究計画では、海外の複数の研究機関と連携してfMRIのデータ収集・解析作業を行い、その成果を2件の論文にまとめて学術誌に投稿した(審査中)。また、この多角的アプローチをさらに広げ、脳損傷患者に適用できる実験デザインを準備して、実際に後頭・頭頂葉領域の局在性病変を有する症例、及びその比較対象群としての健常成人を対象として、視覚性注意障害と言語認知過程の関連について、行動データの収集と解析を行った。これらの研究結果については、論文作成を行っており、近日中に学術誌への投稿を予定している。
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