研究の目的:ショウジョウバエのキノコ体は嗅覚連合学習に必須な脳中枢である。私は、幼虫キノコ体の嗅覚情報の入力領域であるカリックスにおいて糸球体構造が存在することを発見し、34個の糸球体を同定した。また、嗅覚系の二次神経細胞はステレオティピックにカリックスに入力することが分かり、個々のキノコ体神経細胞は約6個のカリックス糸球体にランダムに樹状突起末端を持つことを明らかにした。そこで本研究では、幼虫キノコ体の神経解剖学的解析を行い、カリックスの神経回路構築モデルを提案することと、機能イメージングの系を確立し、解剖学的解析を基盤に、カリックスの匂い情報処理機能のモデルを検証することを目的とした。 研究成果:1)投射神経細胞の単一細胞クローンを作製し、触角葉とカリックスの神経結合様式を明らかにすることで、カリックス糸球体と感覚地図との対応関係を明らかにした。2)カルシウムセンサー(G-CaMP)を導入したハエ系統と単一の嗅細胞が機能するハエ系統を作成して幼虫を匂い物質で刺激し、特定の嗅細胞の活性化によるカリックスでの投射神経細胞末端の活性化様式をG-CaMP蛍光で測定した。活性化された糸球体の同定によってライブイメージングによるカリックス糸球体の機能的な同定を行った。 結果と意義:嗅覚系の脳内二次中枢における感覚情報の表現様式を単一細胞レベルで初めて明らかにした。単一の嗅覚細胞の情報は一個、ないし数個のカリックス糸球体において局所的に表現されるというモデルを提案し、嗅覚一次中枢において匂い情報の特異的な広がりが証明された。本研究で確立した匂い情報モデルとライブイメージングを用いた解析系はカリックス糸球体の感覚地図を単一細胞レベルで正確に記述することを可能にし、嗅覚情報処理機構を解析するための重要な研究基盤を確立したといえる。
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