興奮性細胞と抑制性細胞からなる微細で精密なネットワークは生得的なものか、生後の経験に依存して形成されるかを検討するために、ラットの一次視覚野の神経回路を対象として実験を行なった。一次視覚野スライス標本上の複数のニューロンから同時にホールセル記録を行い、それぞれのニューロン種を同定し、それらの細胞間で神経結合が見られる割合と、その結合を介したシナプス反応を定量的に解析した。視覚野2/3層錐体細胞とfast-spiking抑制性細胞からペア記録を行った結果、開眼前の視覚野では、76%のペアでFS細胞の発火により錐体細胞にIPSCが誘発され、そのうち30%のペアにおいてFS細胞は錐体細胞からの興奮性入力を受けていた。視覚反応性がほぼ成熟レベルに達する時期の視覚野(生後21-25日齢)では生後21-25日齢になると、抑制性結合がみられる割合は減少したが(53%)、双方向性結合しているペアの割合は若干増加した(38%)。開眼前の視覚野では、双方向性の結合がみられたペアと抑制性結合しか存在しないペアでIPSCの振幅に差はなかったが、発達に伴い、前者のIPSCは後者に比べて有意に増大した。従って、成熟した視覚野では錐体細胞と双方向性結合するFS細胞は相手に選択的に強い抑制をかけていると考えられる。また、暗室飼育したラットは、正常な視覚体験を経たラットとほぼ同様な結果を示した。以上の結果は、視覚野のfast-spiking細胞と錐体細胞間の神経結合は、年齢と共に精緻化されるが、そのメカニズムは視覚入力に依存しないことが示唆された。
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