研究概要 |
脊髄損傷の治療のための細胞ソースとして、嗅神経グリア(OEC)が近年注目されている。我々は、嗅粘膜から培養可能な嗅神経幹細胞をneurosphereとして樹立することに成功し、また、そこからOEC様の細胞が分化してくることを見出し、これを移植のための細胞源とすることを検討した。まず嗅神経幹細胞のマーカーとなる分子を探索したところ、Snai1,Snai2,Sox9,Sox10,Pax3などの神経堤マーカーと一致することが明らかとなった。このことは、我々が樹立したneurosphereの分化のパターンが、TuJ1+の神経細胞、GEA:P+のグリア、α-SMA+の平滑筋であり、神経堤幹細胞の分化パターンをとることと矛盾しない。一方、OECは神経堤由来ではなくプラコードから派生するとされてきたが、我々の嗅神経幹細胞からOEC様の性質をもつ細胞も分化してくることから、得られたOEC様細胞が生体内のOECと一致するものかどうかを確認した。まずOECがプラコード由来であるという従来の知見を疑い、神経堤マーカーの一つであるWnt1を発現した細胞が恒久的にEGFPを発現するようになるWnt1-cre/floxed-EGFP mouseを用いて、OECの由来を確認した。すると、嗅粘膜のlamina propriaから嗅球までに観察されるOECがEGFP+であり、予測通り神経堤由来であることが明らかとなった。さらに、得られたneurosphereの分化能についてclonalassayを用いて検討したところ、上記三種へ分化するのは、およそ27%程度で、神経とグリアへの分化が10%、グリアのみが14%、平滑筋が14%であった。また、神経と平滑筋、あるいは神経のみへの分化能を示すものは見られなかった。これらのことから、我々の得たneurosphereはグリアへの分化傾向が強いことがわかった。
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