研究概要 |
細胞接着分子をコードするショウジョウバエDscamは、選択的スプライシングにより単一遺伝子から38,000種類を越える異なった神経受容体を生じうる。個々のDscamアイソフォームが神経細胞間の特異的なシナプス結合形成に寄与するか否かについて検証することを目的として本研究を開始し、本年度は以下の成果を得た。 1.野生型ハエの機械感覚受容神経細胞(MS神経細胞)へ1種類のDscamアイソフォームを異所性に発現させたところ、MS神経細胞の軸索投射様式が変換された。この変換の様式は、発現させたDscamの種類に依存して異なったことから、各Dscamアイソフォームが特異的なシナプス結合を規定している可能性が示唆された。2.Gal4-UASシステムを用いて、MS神経細胞で特異的にsyb:GFPを発現させてシナプスの可視化を試みたところ、野生型ハエではMS神経細胞の軸索投射領域に強い点状のGFPシグナルが観察されたのに対して、RNA干渉法によりDscamの発現をノックダウンさせたハエではMS神経細胞の軸索分枝が存在すると思われる領域に弱く均質なGFPシグナルが観察された。これらの結果は、Dscamの発現がシナプス形成過程において必要であることを示唆している。3.Dscam欠失MS神経細胞へ野生型Dscamを外来性に発現させると軸索投射異常が一部救済(一方向性に伸長が回復)されたが、C末端欠失型Dscamを発現させても軸索投射異常は救済されなかった。この結果は、DscamのC末端が特異的な神経配線のために必要であることを示唆している。このC末端構造が、Dscamをシナプス部へ局在させるために必要であるか否かについては、今後検証していくべき課題である。
|