マウス胚性(ES)幹細胞にpax6遺伝子を導入し網膜神経節前駆細胞を誘導し、視神経損傷マウス網膜下に移植した。本年度は移植マウスの視機能回復を検討した。 対光反射の観察で、正常マウスでは瞬時に瞳孔径収縮を認めたが(収縮率:平均71.7%、SD3.2%)、PBS注入マウスでは損傷28日後でも殆ど収縮を認めなかった(平均9.1%、SD9.2%)。移植マウスでは損傷後21、24、28日後でPBS注入マウスに対し有意な収縮を認めた(p<0.05、28日後:平均46.3%、SD 16.2%)。移植マウスでは有意に光刺激伝達能が回復した。 網膜電図で、網膜神経節細胞とその軸索の神経活動性を示すpositive STR(pSTR)を測定した。刺激強度を-5.7、-5.2、-4.7、-4.2 log cd s m-2(以下単位略)と変化し、各刺激時の電位変化を同3群のマウスで比較した。正常マウスでは最も弱い-5.7刺激よりpSTRを検出し、刺激強度上昇と共に振幅が増加した。PBS注入マウスでは損傷28日後で-5.2刺激より弱いpSTRを検出したが、最強の-4.2刺激でも振幅は小さかった(p<0.01)。移植マウスでは、やはり損傷28日後で-5.2刺激より弱いpSTRを検出したが、振幅は-5.2、-4.7、-4.2何れの刺激でもPBS注入マウスより大きかった。-4.2刺激では、移植マウスはPBS注入マウスの約2倍のpSTRの振幅を示した(p<0.05)。網膜神経節細胞の活動性は網膜神経節前駆細胞移植により有意に回復した。 なお、神経接着分子L1ノックアウトマウスの視神経を損傷し網膜神経節前駆細胞を移植したところ、L1陽性視神経が再生し網膜神経節細胞層から中脳上丘への投射を観察した。 以上、マウスES細胞由来網膜神経節前駆細胞移植により視神経障害である緑内障を治療できる可能性が示され、臨床的検討の意義が示された。
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