脳の形成・発達には、末梢感覚器から脳への神経投射が重要な役割を果たしている。特に嗅神経は発達期において最も早く脳に投射し、嗅球を含む終脳の形態形成を誘導すると考えられている。我々のこれまでの研究から、ケモカイン受容体Cxcr4の機能を欠損したゼブラフィッシュ変異体では、同じ遺伝的背景にもかかわらず、嗅神経投射に多様性が見られることが明らかとなっている。特に約25%の個体では、片鼻からは脳に正常に軸策が投射するが、もう一方の鼻からは嗅球への投射を完全に欠損するという表現型を示す。すなわち、同一個体の左右において正常と異常の表現型を比較解析することが可能である。本研究では、この「片鼻の魚」を用いて、嗅球の発達における嗅神経投射の役割を解析した。前年度までに、嗅神経投射の欠損に伴う嗅球の発達異常として、1)糸球の形成不全、2)介在ニューロンサブセットで発現するTHの免疫活性の減少、3)性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)産生細胞の細胞数の減少を見いだしている。本年度は、匂い情報を高次中枢へと伝える嗅球投射ニューロン(僧帽細胞)について解析を行った。LIM-homeobox型転写因子である1hx2aのプロモーター領域を用いて、僧帽細胞サブセットを膜移行型YFPで可視化したトランスジェニック系統を作製した。Cxcr4機能欠損変異体と交配して嗅神経投射欠損の影響を解析したところ、YFP陽性僧帽細胞数の減少が観察された。このことから、鼻から嗅球への神経投射が僧帽細胞の発達あるいは生存維持に必須であることが明らかとなった。
|