研究代表者らは、側頭葉てんかん実験モデルとして成熟ラット海馬スライス標本における高頻度シナプス刺激誘発性同期的神経活動(AD)に注目し、その発生機構を検討してきた。これまでに、 AD発生に重要な役割をもつ介在細胞群を同定し、これら介在細胞と錐体細胞が興奮性GABA伝達とグルタミン酸伝達による相互興奮回路を形成することにより同期発火を実現していることを明らかにした。 これらの成果を踏まえて、本研究課題は、哺乳類の中枢神経系では技術的に困難なためにいままで報告が少ない「リズム生成神経回路のニューロンレベルでの同定」を目的としている。本年度は、イオンチャネル型グルタミン酸受容体拮抗薬CNQXとAP5の存在下においても発現するテタヌス刺激誘発性の振動性入力を発見したので、それを精査するための実験系を確立した。GABA入力を強調して観察できるように脱分極性に逆転させると同時に、細胞毒性が少なく長時間の薬理実験に耐え得るパッチ電極内液のクロライド濃度の最適値を検索したところ、40mMであった。この内液を用いて薬理学的実験を行ったところ、CNQXとAP5に加えて、(1)非特異的イオンチャネル型グルタミン酸拮抗薬キヌレイン酸と代謝調節型グルタミン酸拮抗薬MCPG、および(2)GABA B受容体拮抗薬CGP55845を投与してもテタヌス刺激誘発性の振動性入力は消失しなかった。一方、(3)GABA A受容体拮抗薬ビククリン、および(4)ギャップ結合阻害薬カルベノキソロンを投与すると、完全に消失した。これらの結果から、テタヌス刺激後ある介在細胞ネットワークがグルタミン酸入力非依存的にリズムを生成しており、錐体細胞への振動性入力の発現には「GABA A受容体の活性化」と「ギャップ結合を介した神経回路」が必須である可能性が示唆された。
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