研究代表者らは、側頭葉てんかん実験モデルとして成熟ラット海馬スライス標本における高頻度シナプス刺激誘発性同期的神経活動(AD)に注目し、その発生機構を検討してきた。これまでに、AD発生に重要な役割をもつ介在細胞群を同定し、これら介在細胞と錐体細胞が興奮性GABA伝達とグルタミン酸伝達による相互興奮回路を形成することにより同期発火を実現していることを明らかにした。 これらの成果を踏まえて、本研究課題は、哺乳類の中枢神経系では技術的に困難なためにいままで報告が少ない「リズム生成神経回路のニューロンレベルでの同定」を目的としている。イオンチャネル型グルタミン酸受容体拮抗薬CNQXとAP5の存在下においても発現するテタヌス刺激誘発性の振動性入力(proto-afterdischarge)を発見し、昨年度はこの発生メカニズムを精査するための実験系の確立に成功した。さらにこのproto-afterdischargeの発現には「GABA_A受容体の活性化」と「ギャップ結合を介した神経回路」が必須であることを見出した。このことから、介在細胞ネットワークこそがリズム生成を担っていると考えた。 今年度は、このリズム生成を担う介在細胞ネットワークを構成する介在細胞のサブタイプを同定することを目標として、proto-afterdischarge発生中の各種介在細胞サブタイプの挙動を詳細に検討した。200例を超える介在細胞の活動を電気生理学的に解析した結果、proto-afterdischarge発生中に顕著な同期リズム発射活動を示すのは、錐体細胞層に存在する高頻度発火特性を持つ介在細胞(バスケット細胞、シャンデリア細胞、バイストラティファイド細胞など)であることが明らかとなった。
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