研究課題
パブロウ型条件性恐怖記憶は主に扁桃体における連合学習により形成されると考えられている。この連合とは、恐怖刺激を被った場所(文脈)や感覚情報(音や匂い)等、普段は恐怖感を覚えない中性の刺激(条件刺激)と、具体的に身体的・精神的な苦痛を伴う「嫌悪刺激」との連合を指す。この連合が成立した動物は、もはや嫌悪刺激なしで条件刺激に対して「恐怖応答」を示すようになる。このようにして恐怖記憶を獲得した動物を繰り返し条件刺激のみに再暴露した場合、その動物の恐怖応答が徐々に減弱していく現象、Fear extinction、が知られている。 Fear extinctionは恐怖記憶の消去ではなく、獲得された連合学習に対する抑制性の学習であり、この抑制性学習の固定や想起に主要な役割を果たす神経回路のひとつとして前頭前野(主にmedial prefrontal cortex, mPFC)から扁桃体への投射が考えられている。Fear extinctionは、PTSD、パニック障害、強迫性障害等の不安関連障害に対する治療法である「認知行動療法」の基礎プロセスと考えられており、その詳細の研究は同療法を進歩させる上で重要である。我々はこれまでに、独自開発してきたFlop型AMPA受容体趣向性同受容体増強薬PEPAを用いることにより、mPFCの活性化がFear extinctionに重要であることを報告した。本研究ではこの成果基盤の上に、マウスを用いてFear extinctionの回路について更に検討を加えた。平成19年度の成果として、Fear extinctionにおけるmPFCの役割が、恐怖記憶の新旧により全く異なることを見いだした(論文投稿中)。また、ニューロペプチドのひとつニューロテンシンがその1型受容体活性化→ドーパミン受容体抑制→NMDA受容体活性低下というシグナルの流れを介して、扁桃体内シナプス可塑性を抑制性に制御すること(当該分野専門誌Neuropsychopharmaoologyに2008年3月発表済み)、そしてその受容体ノックアウトマウスでは恐怖記憶の減衰が弱まっていることを見いだした(論文執筆中)。以上の結果はFear extinction回路の詳細な理解、ひいては新たな認知行動療法アシスト薬開発の一助になると考える。
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