ラットやネコ大脳皮質では、抑制性細胞の代表であるパルブアルブミン含有GABA細胞はギャップ結合(電気的シナプス)で互いにつながり、同期発火するという特徴を持つことが報告されている。霊長類でもギャップ結合があるかどうかをマカクサル大脳皮質を用いてギャップ結合特異的タンパク質であるコネキシン36を指標として調べた。サル大脳皮質でもギャップ結合はパルブアルブミン陽性樹状突起上に存在したが、ネコでは1個のパルブアルブミン陽性細胞が数十個のギャップ結合を持つのに対し、サルでは2~8個のギャップ結合を持つのみであった。ヒトの大脳皮質組織では2重染色ができなかったためパルブアルブミン陽性樹状突起にギャップ結合が存在するかどうかは確認できなかったが、運動皮質や体性感覚皮質において、コネキシン36陽性構造の密度はラットと比べて低かった。同じ傾向は霊長類に近縁種であるツパイでも認められた。一方、大脳皮質には錐体細胞の細胞体周囲に終末を持つバスケット細胞や軸索初節に終末を持つシャンデリア細胞という独特の形態を持つGABA細胞がパルブアルブミン陽性であることが知られている。霊長類では1つの錐体細胞を取り囲むパルブアルブミン終末はげっ歯類よりも多く、軸索初節における終末密度も高い。げっ歯類では電気的シナプスにより同期した抑制性GABA細胞が興奮性細胞の代表である錐体細胞を抑制するのに対し、霊長類では単一の抑制細胞が強力に錐体細胞を抑制し、多数のGABA細胞が同期して行う錐体細胞の抑制は弱いと考えられる。大脳皮質領野間比較を行った場合、サルではどの領野でもギャップ結合の数は少なく、領野差は見られなかった。一方、錐体細胞を取り囲むパルブアルブミン終末の数は一次視覚野では少なく、運動関連皮質では多い。さらに、運動関連皮の中でも前頭前野が最も多く、各領野の機能の違いを反映していると考えられる。
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