研究概要 |
プリオン病の従来の検査法では、異常プリオン蛋白のプロテアーゼ抵抗性という性質を応用して、プロテイナーゼK処理後の未分解産物を検出する。一方で、プロテアーゼ感受性でありながら、感染性や神経細胞毒性を有する異常プリオン蛋白分子種の存在が注目されている。異常プリオン蛋白の界面活性剤難溶性という別の性質を応用して、遠心カラムを利用した簡便なゲル濾過法により異常型と正常型を分離する方法を開発し、その至適条件を検討した。市販の核酸精製用の遠心ゲル濾過カラムを用いて、低速遠心と溶出バッファーの補充を繰り返して、蛋白の分子サイズごとの分画を行った。界面活性剤存在下で、正常型は分子サイズの小さなモノマーであり、異常型は難溶性で分子サイズの大きな重合体として存在していた。ヒトおよびマウスのプリオン病標本いずれからも重合型異常プリオン蛋白が検出され、その分子サイズは数100〜1,000kDa程度と推定された。通常のバッファーでは正常例でも重合したプリオン蛋白分子が検出される標本があったが、1%SDSを加えることにより正常型は完全に可溶化して、異常型と区別し得た。遠心条件も複数試みたが、スイングローターでなくともアングルローターで十分サイズ分画し得ることが分かった。異常型プリオン蛋白のうちでも、高度に重合してアミロイド形成したフィブリルよりも、コンパクトに重合したオリゴマーのほうが感染性や神経細胞毒性が高いという報告もあり、従来とは異なる基準で、中間的な性質を持つ異常プリオン蛋白を検出して病態への関与を検討する必要がある。遠心カラムを用いた簡易サイズ分画は、新たな解析方法として有用である。
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