クロイッフェルド・ヤコブ病や牛海綿状脳症といったプリオン病の原因は正常型プリオンタンパク質(PrP^C)の異常型プリオンタンパク質(PrP^<Sc>)への変換・凝集がその原因であり、異常型の生成機構には不明の点が多い。生成機構はprion initiation(鋳型となるPrP^<Sc>が存在しない条件下でのPrP^CのPrP^<Sc>への変換)とprion propagation(鋳型となるPrP^<Sc>が存在する条件下でのPrP^CのPrP^<Sc>への変換)からなり、これらの反応へのPrP^C以外の生体成分分子の関与について機構解明の観点から興味がもたれている。最近、NADPHとCu^<2+>イオン共存下でのN末端76残基からなるリコンビナントタンパク質(PrP-(23-98))と全長(PrP-(23-231))の凝集とプロティナーゼKの分解に対しての凝集体の抵抗性が報告されたことから、本研究ではNADPH以外のヌクレオチドのPrP-(23-98)の凝集への影響と生成した凝集体の細胞傷害性を調べた。 本研究より、PrP-(23-98)の凝集はCu^<2+>イオン共存下ならば、NADPH以外のADP、ATP、CTP、GTP、そしてUTPでも凝集することが明らかにされた。しかし、ADPに関しては、その凝集促進作用は他の4つのヌクレオチドと比較して、リン酸基の数が少ないことからその凝集促進作用は弱いことも示された。また、AMPでは凝集促進作用は全く認められなかった。さらにPrP-(23-98)の凝集体はCu^<2+>が結合している構造ではプロティナーゼKの分解に抵抗性をもつことが示された。凝集体の細胞傷害性を調べた結果、PrP-(23-98)で、あるいはCu^<2+>イオンとヌクレオチドで細胞を処理した場合と比較して、Cu^<2+>イオンとヌクレオチド共存下(NADPH、ATP、CTP、GTP、UTP)で生成した凝集体で細胞を処理した場合、凝集体の濃度依存的に細胞の生存率の有意な低下が認められ、凝集体に細胞への傷害性があることが示された。
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