PrP^cへの銅イオンの結合がPrP^cのタンパク質分解酵素耐性の獲得やその構造に影響することが報告されている。私達は前年度の研究によりin vitro系で銅イオンとヌクレオチド(NADPHやATP等)の共存下でプリオンタンパク質の凝集が起こることや内在性のプリオンタンパク質の関与しない凝集体の細胞傷害性(アポトーシスの誘導)を見出した。これらの研究をさらに進めるため、本年度は主に小胞体シャペロンの凝集への影響を調べた。 ERシャペロンであるCalreticulin (CRT)を凝集開始前あるいは開始直後に反応液に添加した場合、いずれの場合にもCRTの濃度依存的に凝集が抑制された。また、PrPの凝集体を含む反応液へCRTを添加した場合には、速やかな凝集体の消失が認められた。この現象は顕微鏡での明視野観察でも同様に確認された。次に、凝集体のもつアミロイドとしての性質がCRTの添加によりどのように変化するか調べた。凝集体の示すCongo redの結合やプロティナーゼKによる分解に対する抵抗性はCRTの存在下では消失した。これらの結果から、CRTはPrPに作用して凝集体生成を抑制するだけでなく、生成した凝集体に作用してその解離を促す機能があることが示唆された。一方、GRP78/BipやGRP58/ERp57/ER-60ではCRTの結果と異なり、凝集体生成の抑制作用は認められず、逆にPrPと銅イオン共存下で凝集体の誘導が認められた。
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