アルツハイマー病における神経再生(neurogenesis)の会子メカニズムを明らかすることが、本研究の目的である。そこで、培養系を使った網羅的遺伝子発現解析によって、B-アミロイドが神経発生に関与する転写因子、Mash1とOlig2の発現を変化させること(Mash1の発現誘導とOlig2の発現抑制)を明らかにした。B-アミロイド無添加の培養系では、Mash1はnestin陽性の未分化細胞(神経幹細胞)で発現しており、大部分のMash1陽性細胞はOlig2を共発現していた。しかし、B-アミロイド添加によって、Mash1陽性/Olig2陰性の神経幹細胞の割合が増加していることがわかった。そこで、それら2つの転写因子の発現変化が、神経幹細胞から神経細胞への分化を誘導するのか、それとも神経幹細胞の死を誘導するのかを明らかにするために、培養神経幹細胞へのMash1遺伝子とOlig2 RNAiの共発現実験を行った。その結果、Olig2を共発現している神経幹細胞でMash1を過剰発現させると、神経幹細胞から神経細胞への分化が誘導されるのに対し、RNAiによってOlig2発現を抑制した神経幹細胞でMash1を過剰発現させると、神経分化よりもむしろ神経幹細胞の死を誘導することがわかった。また、EGFやFGF2などの成長因子を培地から除去することによってOlig2発現を抑制した場合にも、神経幹細胞の死が誘導された。これらの結果から、神経幹細胞から神経細胞の分化には、Mash1とOlig2の協調作用が必要であり、B-アミロイドによって、Mash1陽性細胞でOlig2発現が抑制されると、分化から細胞死へとスイッチングされると結論づけた。
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