アルツハイマー病におけるneurogenesisの分子メカニズムを明らかすることが、本研究の目的である。培養系を使った網羅的遺伝子発現解析によって、ss-アミロイドが神経発生に関与する転写因子、Mash1の発現を誘導し、Olig2の発現を抑制させることが明らかになった。Mash1陽性細胞(神経幹細胞)の多くは、Olig2を共発現しているが、ss-アミロイドによって、Mash1陽性/Olig2陰性の神経幹細胞の割合が増加した。次に、ADマウスモデル(APPsw Tg、Tg2576)でのMash1、Olig2の発現変化を調べた。15-21ヵ月齢マウスでは、APPsw Tg、wildともに、Mash1(+)細胞はほとんど認められなかったが、Olig2(+)細胞は同月齢のマウスにも認められ、その細胞数は、APPsw Tgマウスで有意に減少していた。つまり、AssによるOlig2の発現抑制は、in vivoでも起こっていた。2つの転写因子の発現変化が、細胞にどのような運命変化をおこすのか明らかにするために、Mash1遺伝子とOlig2 RNAiの共発現実験を行った。その結果、Olig2を共発現している神経幹細胞でMash1を過剰発現させると、神経幹細胞から神経細胞への分化が誘導されるのに対し、RNAiによってOlig2発現を抑制した神経幹細胞でMash1を過剰発現させると、神経分化よりもむしろ神経幹細胞の死を誘導することがわかった。また、EGFやFGF2などの成長因子を培地から除去することによってOlig2発現を抑制した場合にも、神経幹細胞の死が誘導された。これらの結果から、神経幹細胞から神経細胞の分化には、Mash1とOlig2の協調作用が必要であり、ss-アミロイドによって、Mash1陽性細胞でOlig2発現が抑制されると、分化から細胞死へとスイッチングされると結論づけた。
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