本研究は、海馬CA3領域のMossy fiber-CA3ニューロン間のシナプスにおける「プレコンディショニングによるLTP誘導抑制」のメカニズムを明らかにすることである。当該現象の性質を下記(1)および(2)について検討し、メカニズムを下記(3)により追求した。 (1)プレコンディショニング刺激の周波数特性についての解析:異なる周波数のプレコンディショニング刺激をMossy fiberに入力して、LTP誘導抑制が起こるかどうかを検討した。プレコンディショニング60分後に100Hzのテタヌス刺激を入力した場合のLTP誘導抑制効果において、プレコンディショニングは1-2Hzが有効で5-10Hzは無効であった。 (2)プレコンディショニング刺激が有効であるtime windowの解析を行う:2Hzの低周波プレコンディショニングとテタヌス刺激の時間間隔を検討した。プレコンディショニング後20分まではテタヌス刺激を入力するとLTP誘導がみられた。 (3)プレコンディショニングで賦活される2次情報伝達系およびリン酸化反応に関する薬理学的な検討を行う。2Hzでのプレコンデショニング時にgroup1代謝型グルタミン酸受容体、IP3受容体およびCAMKIIを介したリン酸化を阻害するとLTP誘導抑制効果が抑制された。プレコンディショニングによりIP3受容体が活性化されて細胞内Ca^<2+>ストアより放出されたCa^<2+>が、細胞内リン酸化反応を経てLTP誘導抑制効果を発揮していると結論した。
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