神経細胞が次の神経細胞に情報を伝えるシナプス伝達の主たる過程は、神経伝達物質の放出により行われている。従って、神経伝達物質の放出の過程を解明していくことは、シナプスの可塑性ひいては記憶形成の過程を理解する上で重要である。これまで、私共は、神経伝達物質の放出にSNARE系の活性制御タンパク質であるトモシンが抑制的に働くことを明らかにしている。トモシンがt-SNAREsとトモシン複合体を形成し、小胞融合に必須なSNARE複合体の形成を抑制することにより、神経伝達物質の放出を制御している。ところが、最近、私共は、トモシンが神経伝達物質の放出に抑制的だけでなく、促進的に働くことを見い出した。そこで、このトモシンの促進的作用について解析し、以下の結果を得た。 1)培養ラット上頸交感神経細胞でトモシンをノックダウンすると、アセチルコリンの分泌を抑制した。 2)トモシンの促進的作用には、抑制的に作用するトモシンのC末端側のシンタキシン結合領域ではなく、N末端側のWD40リピート配列を含む領域が関与していた。 以上の結果から、トモシンはN末端側のWD40リピート配列を介して、神経伝達物質放出を促進的にも調節していると考えられた。 このように本年度は、トモシンの促進的作用の分子メカニズムについて、当初の計画以上の成果をあげることが出来た。
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