研究課題
基盤研究(C)
神経のインスリン受容体シグナルが、神経新生や神経機能の維持・修復、学習・記憶に重要な役割を果たすこと、アルツハイマー病などの神経変性疾患において脳におけるインスリン抵抗性が起こっていることが明らかになってきた。本研究では、臨床で用いられている様々な薬物や生理活性物質、食事中に含まれている成分などが、神経系のインスリン受容体シグナルに及ぼす影響について、詳細な解析を行い、以下(1-4)の研究成果を得た。また、インスリン受容体シグナルに伴う細胞機能の変動の一つとして、電位依存性Naチャネルの機能、細胞膜発現量の変動を解析し、派生的に(5-6)の研究成果を得た。(1) 神経保護作用が報告されている薬物や生理活性物質(エストラジオール、クルクミン、ドコサヘキサエン酸、レスヴェラトロールなど)は、インスリン受容体の下流のシグナル分子であるIRS-1/IRS-2の発現増加を介してインスリン受容体シグナルを増強させた。(2) ニコチンの長期処置は、Protein kinese C-α-Extracellular signal- regulated kinaseを順次活性化させ、インスリン受容体の下流のシグナル分子であるIRS-1/IRS-2を増加させる。(3) 免疫抑制薬であるサイクロスポリンやFK506は、糖尿病や神経毒性などの副作用を有するが、これらは、カルシニューリン抑制を介して、IRS-2の発現のみを選択的に低下させ、インスリンシグナルを著しく減弱させた。(4) インスリンやリチウムにより、Glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)が抑制されると、インスリン受容体、IRS-1/IRS-2、Aktは、negative-feedback機構により発現が減少する。(5) リチウムは、GSK-3β非依存的にNav1.7電位依存性Naチャネルを抑制する一方で、GSK-3β依依存的に電位依存性Naチャネルの発現を増加させる。(6) Nav1.7電位依存性Naチャネルの活性化は、GSK-3βの活性を抑制し、タウのリン酸化が減少する。以上の研究成果は、英文原著論文5報、英文総説3報、日本語総説1報の合計9編の論文で報告した。本申請テーマで得られた一連の研究成果は、神経系のインスリンシグナル分子群の発現調節機構を明らかにするだけでなく、痴呆や神経変性疾患の発症を未然に防ぐ、あるいは、その進行を遅らせるような、新たな予防法・治療法に関する重要な基礎情報を提供しうるものであり、今後の展開が期待される。
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