ドーパミンは中枢神経の神経伝達物質で、受容体を介して運動の制御、情動、報酬系などにも重要な役割を持つと考えられる。また、パーキンソン病や統合失調症などの疾患ではドーパミンの働きの低下あるいは過剰が関与すると考えられている。本研究ではドーパミン受容体の主要分子であるD1受容体(D1R)およびD2受容体(D2R)を介する情報伝達に着目し、運動の制御機構の解明、および運動障害を示す疾患であるパーキンソン病の病態機構解明を目指す。 D1RおよびD2Rの両方を欠損するマウスを作製すると、生後8日目より急速に運動量が低下し、摂食が見られず、生後3週目頃に死亡する。このことは、摂食行動の開始にDlRとD2R両方のシグナルが関与していることを示唆している。ドーパミンシグナルの機能をドーパミン受容体の観点から検討するため、D1R/D2R二重欠損の遺伝背景に、テトラサイクリンで発現制御可能なD1R遺伝子を持つトランスジェニックマウスを作製した。このマウスは、導入されたD1Rの発現により、D1R/D2R二重欠損マウスの発達期の運動異常・摂食異常・致死性を回避できる。ドキシサイクリン(D0X)を投与すると、可逆的にDlRの発現が低下しD1R/D2R二重欠損状態となり、適当な週齢で二重欠損状態を観察する事が可能である。このマウスの運動機能と摂食行動に着目して解析したところ、D0X投与後、四肢の協調的運動が消失し、動作の緩慢や姿勢異常等のパーキンソン病類似の運動異常が見られ、体重の低下を示した。衰弱死に至る前にD0Xの投与を停止してD1Rの発現を再び上昇させると、一過性に運動過剰の状態を示し、運動異常と摂食異常は消失し、D0X投与前の状態に回復した。D1RとD2Rは異なる経路、すなわちD1Rを経由する「直接路」とD2Rを経由する「間接路」を介して運動を制御すると考えられている。今後、二つの経路がどのように運動を制御しているかを明らかにする予定である。
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