研究概要 |
これまでのネコを用いた研究により,1)脳幹と脊髄には歩行と筋緊張レベルを統合的に制御するメカニズムが存在すること,2)それらは,大脳皮質や辺縁系-視床下部からの興奮性投射と基底核からの抑制性投射のバランスにより制御されること,などが明らかとなった.これらの研究成績は,基底核疾患における筋緊張異常と歩行障害のメカニズムや,基底核疾患における睡眠障害の仕組み,そして,ナルコレプシーにおける筋緊張消失のメカニズムなどに有用な知見を提供してきた.しかし,これらの研究成績だけでは,脳がどの様に運動機能・精神機能・自律神経機能を統合的に制御するのか解明できない. そこで本年度は,基底核が,運動機能と精神機能の統合に関与するのか?に焦点を当て,大脳基底核におけるコリン作動系が上記機能にどの様に関与するのかを検討した.慢性無拘束ネコの線条体(尾状核)におけるコリン作動性物質であるカルバコールを微量注入すること,運動機能の変化と,これに伴う情動表出の変化が誘発された.具体的には,注入1〜2分後より歩行ステップの減少,鳴き声回数の減少と屈曲姿勢などの運動機能の変化と,対象物に対する認知行動の変化,例えばHissingやHowlingなど威嚇的な行動が出現する(情動表出の変化)ことが明らかとなった. この成績は,大脳基底核が,運動機能と情動で表出される精神機能の統合的な役割の一端を担っていることを示唆すると共に,パーキンソン病における基底核内のコリン作動系の機能異常がこの疾患における運動機能や情動障害の背景にあることを推定させる.
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