研究概要 |
ナルコレプシーという疾患では, 強い情動を誘発する刺激(ヒトでは驚きや喜び, 動物では餌)によって覚醒時にも関わらず筋緊張が消失する. これは情動性脱力発作(カタプレキシー)と呼ばれる現象である. ナルコレプシーは, オレキシンという神経ペプチドの減少や欠乏によって誘発されることが知られており, オレキシン作動性投射は, 脳幹の筋緊張調節領域や大脳基底核の出力核である黒質網様部にも作用することにより大脳基底核と脳幹とを結ぶ運動機能の調節機構の働きを調節することも明らかとなった. そこで, 本年度は, ラットおよびマウスを用いてオレキシン作動系が自律神経機能の調節に働く機能の解析を試みた. その結果, オレキシン作動系は胃酸分泌などの消化器機能の調節にも強く作用することが解明できた. オレキシンは, 従来から摂食誘発物質として知られてきた. 従って, 本研究の成績は, 情動行動としての摂食行動の背景には自律神経機能としての消化器機能が強く関与していることを強く推定させる. これらの成績は, 1)大脳基底核が, 運動機能と情動で表出される精神機能の統合的な役割の一端を担っていること, 2)パーキンソン病における基底核内のコリン作動系の機能異常がこの疾患における運動機能や情動障害の背景にあること, そして, 3)情動行動(強い精神活動と運動機能)と自律神経機能の調節にはオレキシン作動系による大脳基底核出力の制御も関与すること, などを示唆する. パーキンソン病とナルコレプシー症状の合併例が数多く報告されてきたが, その背景には, 本研究で解明できたメカニズムが関与する可能性がある.
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