これまでの行動学的研究で、サルが数の認識をしていることが報告されている。同時に生理学的研究で、大脳皮質の特定の領野で数の認識に関与していると推測される細胞活動が認められている。その中でも、頭頂皮質が数的認識に深く関わっていることが申請者らの論文により発表されている。しかし、破壊実験等で頭頂皮質の不活性化が数的情報処理課題の遂行に影響をあたえるかという視点での研究は乏しい。本研究では、数的情報処理課題遂行中のサルの頭頂皮質をムシモルで一時的に不活性化する事で課題の遂行にどのような影響が出るかを調べた。 本研究では最終的に、刺激呈示回数に応じた動作を遂行する課題中の細胞活動に焦点をあてる。この準備段階として、自己の運動回数に応じた細胞でのムシモルの効果を見るために、2種類の運動(ハンドルを押す・回す)を一定回数だけ遂行する課題を行わせた。言い換えれば、この課題の成功には自己の運動の計数が必要とされる。数秒間の待機時間の後、視覚刺激が提示されるとその色により、"押す"か"回す"のいずれか一方の動作を行った。この動作を5回繰り返した後、もう一方の動作に自ら切り換えると課題は成功となる。 この課題中、動作回数選択的な活動を見せる細胞を頭頂皮質より探索し、その領野を不活性化のターゲットとした。ムシモルを注入する前の課題成功率は79.7%であったのに対し、注入後の課題成功率は55.6%と有意に下降した。この成功率の下降は、頭頂皮質へのムシモルの注入が数的処理課題の遂行を困難にしたといえる。しかし、注入後の成功率は明らかにチャンスレベルを上回った。この結果により、頭頂皮質が数的情報処理に関与するものの、必要不可欠な領野ではなく、不活性化しても数的認知が可能であることが分かった。この結果を踏まえ外部刺激呈示回数認知課題でも同様の効果が見られると考え、今後発展させてゆく予定である。
|