これまでの行動学的研究で、サル等の霊長類が数の認識をしていることが報告されている。同時に、生理学的研究で、大脳皮質の特定の領野で数の認識に関与していると推測される細胞活動が認められている。その中でも、上頭頂小葉が数的認識に深く関わっていることが申請者らの論文により発表されている。しかし、破壊実験等で頭頂皮質の不活性化が数的情報処理課題の遂行に影響をあたえるかという視点での研究はなく、責任部位であるか否かは不明である。本研究では、数的情報処理課題遂行中のサルの頭頂皮質を薬品(ムシモール)で一時的に不活性化する事で課題の遂行にどのような影響が出るかを調べた。 本研究では、ニホンザルを訓練して、2種類の運動(ハンドルを押す・回す)を一定回数だけ遂行する課題を行わせた。言い換えれば、この課題の成功には自己の運動の計数が必要とされる。数秒間の待機時間の後、視覚刺激が提示されるとその色により"押す"か"回す"のいずれか一方の動作を行った。この動作を5回繰り返した後、もう一方の動作に自ら切り換えると課題は成功となる。この課題遂行中、動作回数選択的な活動を見せる細胞を頭頂皮質より探索し、その領野を不活性化(可逆的破壊)のターゲットとした。ムシモールを注入する前の課題成功率は約80%であったのに対し、ムシモール注入後の課題成功率は60%以下になった。この成功率の低下は、統計的に有意であり、上頭頂小葉へのムシモールの注入が数的情報処理課題の遂行を困難にしたといえる。この結果により、頭頂皮質の破損により数的認知能力が障害された患者のリハビリテーションの助けとなるものであると考えられる。
|