脳幹は、生命活動に関わる多くの情報が直接入・出力し、処理・統合される重要な領域であるが、これらの神経回路網が、機能的にどのように形成され成熟していくのかということは、ほとんど解明されていない。我々は、これまで、膜電位感受性色素を用いたニューロン電位活動の光学的イメージング法を発生初期胚脳幹に適用し、脳神経核を構成するニューロンの電位活動の時間的・空間的パターンを調べ、その発達過程を追跡してきた。内耳神経は、蝸牛神経と前庭神経から構成され、それぞれ、聴覚、平衡覚に関係する神経であり、これらの情報は、脳幹内でいくつかの神経核を経由して中枢に伝えられることが知られている。例えば、前庭動眼反射は、無意識のうちに中心窩視を可能にしている反射であり、視標を追跡する上で動物にとって必要不可欠な反射であるが、この反射回路の中継核は脳幹内に存在し、脳幹神経回路網の機能形成過程を明らかにする上で最適な研究対象であると考えられる。そこで、本研究は、聴覚および平衡覚に関係する神経回路網に焦点を当て、脳幹神経回路網の機能形成過程と三次元的機能構築過程を明らかにすることを目的として企画された。 本年度は、鶏胚を実験対象として、蝸牛・前庭神経-脳幹摘出標本に膜電位の光学的イメージング法を適用し、これら神経の電気刺激によって脳幹内に誘発される神経応答をマッピングして、蝸牛神経関連核と前庭神経関連核の同定、発生に伴う神経応答の大きさの変化、感覚核におけるシナプス応答の出現時期の同定を行った.
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