研究概要 |
「顔」の情報処理に特化した神経回路の障害により,相貌失認というたいへん特徴的な病態が現われる.相貌失認は,統覚型(「顔」のアイデンティティ自体の知覚障害)と連合型(「顔」のアイデンティティと様々な意味情報との連合障害)の2型に細分される.連合型の存在が示すように,「顔」のアイデンティティと様々な意味情報との連合は,「顔」のアイデンティティ認知の本質的な側面であると考えられる.本研究では,「顔」のアイデンティティと意味情報の連合記憶のニューロン相関を解明することを目的に認知課題として新たに,「顔」を用いた対連合記憶課題(APA課題)を導入し,課題遂行時のサルTEav野の「顔」関連ニューロン活動を記録した.同課題に使用された24種類の視覚刺激(「顔」20種類と「図形」4種類)の任意の2種類間の類似度を各視覚刺激(手掛り刺激)に対する総数80個の連合対応答ニューロン(「顔」と「図形」に応答性があったニューロン)のニューロン応答間の相関係数に基づいて求めることにより,連合対応答ニューロン集団による「顔」や「図形」の表現様式を解析した.本研究の結果,TEav野「顔」応答ニューロンは,(1)ニューロン集団として,「顔」の向きに依存しない「顔」のアイデンティティを表現していること,また同時に(2)ニューロン集団として,学習された「顔」と「図形」の連合対を表現していることが明らかになった.以上の知見は,対連合学習が,TEav野「顔」応答ニューロンのニューロン集団としての活動に明確な影響を与えることを示している.このような「顔」のアイデンティティを表現するTEav野「顔」応答ニューロン集団の対連合学習への応答性は,「顔」のアイデンティティと意味情報の連合記憶の基礎をなしている可能性が示唆された.
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