研究概要 |
嗅覚はナノスケールの感覚神経(嗅繊毛)でスタートする。嗅覚情報伝達カスケードにおいて、Caイオンの役割は信号非線形増幅(Cl(Ca)チャネル開口)、信号制御(adaptation)に代表されるように多様かつ重要である。本プロジェクトは、嗅覚システムの分子挙動を実時間でモニターすることによって、従来から残されてきた問題を解決し「香り感覚受容」という生理学的システムを空気中の匂い分子の到達過程から嗅繊毛内で構成される分子の実体と挙動の観点から説明することが最終目的である。本研究では、電気生理学と光学的手法を組み合わせ、従来技術的に困難であった微小構造体内での分子挙動の実時間での制御・可視化、分子移動のシミュレーション検証に新規性をおいて、実験を計画・遂行した。実験対象である嗅繊毛直径は100nmという限られた微小空間であるため、内在している分子の挙動を実時間で測定するために、パッチクランプ法による電流測定と蛍光インジケータ(Fluo4)による可視化を使用した。前年度、繊毛内では2um以上の距離をCaイオン拡散が起こらないことを報告したが、狭小空間内の分子移動をシミュレートした結果、空間を構成する膜上にCaイオンが結合することで空間内拡散に制限がかかること可能性が示唆され、更にCl(Ca)チャネルが繊毛上に広く発現している点(Takeuchi & Kurahashi, 2008)とあわせると、繊毛内コンパートメントとして情報変換を行い、繊毛全体がその機能を有していることが示唆された。
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