ジストニアは、持続性または反復性の筋収縮により、四肢および体幹の異常運動を示す神経疾患である。臨床例から大脳基底核の異常であると考えられているが、病態の解析を行うための適当なモデル動物が存在しないことから、正確な病態については不明であった。本研究では、ジストニアの病態を解明することを目的として、ヒトの全身性ジストニアの原因遺伝子を組み込むことによって作製したジストニアのモデルマウスであるDYT1トランスジェニックマウスのニューロン活動を覚醒条件下で記録した。その結果、大脳基底核の出力部である淡蒼球内節において、ニューロンの自発発火の著しい低下と、バーストや長い活動休止を伴う異常な活動パターンが観察された。また、大脳皮質運動野の電気刺激に対して、長い抑制を伴う異常なパターンで応答することがわかった。これらの結果から、大脳基底核出力部における異常な自発発火パターンと、大脳皮質からの入力に対する異常な応答パターンが、ジストニアにおける症状発現に寄与していることが示唆された。 マウスには遣伝子改変動物や突然変異体が多数存在し、様々な疾患のモデルが提唱されているが、マウスにおけるシステムレベルでの電気生理学的実験は、これまでほとんど行われていなかった。本研究では、マウスのニューロン活動を、麻酔薬の影響を排除して覚醒条件下で記録するシステムを確立し、ジストニアのモデルマウスのニューロン活動を記録することによって、ジストニア症状発現のメカニズム解明に迫るデータを得た。今後、さらに解析を進めることにより、ジストニアの正確な病態を明らかにし、効果的な治療法を検索することが出来ると考えている。また、本研究で確立した実験系を用いることにより、多数存在する他の疾患マウスについても、同様に解析することが可能であるため、様々な疾患の病態解明に貢献出来ると考えている。
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