電子伝達系の複合体IIのサブユニットであるSDHC遺伝子の異常はミトコンドリアから発生する活性酸素の量を増加させる。テトラサイクリンにより変異SDHC遺伝子の発現を調節可能なTet-mev-1マウス(mev-1マウス)と構築した。本研究は家族性傍神経腫(パラガングリオーマ)の患者のSDHC遺伝子に変異が見つかったことから、この加mev-1マウスを用い、活性酸素によるガン発症のメカニズムの解明を目的とした。 mev-1マウスは胎児期から離乳期にかけて成長の遅れが見られ、多くの組織・器官でアポトーシスが観察された。しかし生後12週間目には体のサイズは正常に戻り、その後も高頻度のガンの発症は観察されなかった。mev-1のマウス培養細胞株では形質転換とアポトーシスが同時に観察されることから、マウス個体においてもガン細胞はアポトーシスにより消去されている可能性が示唆された。 組織・器官を観察する中で3ヶ月齢のmev-1マウスにおける眼球の活性酸素発生量が同時期のwild typeマウスと比較して有意に増加しており、酸化DNAの指標である8-OHdGは3ヶ月齢ではWild Typeとの差が認められなかったものの、6ヶ月齢のmev-1マウスではWild Typeと比較して角膜上皮において増加していることを見出した。HE染色、および核染色による形態学的解析では、角膜内皮細胞の脱落がmev-1マウスにおいて早期に観察された。また、我々の解析により10ヶ月齢のmev-1マウスで角膜厚の減少が認められており、これはWild Typeの22〜33ヶ月齢に相当することを明らかにした。さらに、mev-1マウスでは角膜内皮細胞数が同時期のwild typeのマウスと比較して減少が認められ、これはWild Typeの24ヶ月齢に相当しており、mev-1マウスで細胞間接着の早期減少を示唆する結果を得た。
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