化学変異原のENUによって誘発された突然変異系統であるAli18マウスは、成体になってから末梢四肢に炎症を自然発生させることから炎症性関節炎モデルであると考えられている。Ali18の原因遺伝子を同定するため、海外共同研究者であるHrabe de Angelis教授とともにgenetic mapping解析を行った。F2組換体で約700の減数分裂についてマイクロサテライトマーカーを用いて連鎖解析を行ったところ、Ali18原因遺伝子の存在する候補領域を約2Mbまで狭めることに成功した。さらにmapping解析を継続したところ、候補領域を100kb程度まで絞ることができた。このゲノム領域を含む2つのBACクローンのDNAを用いて、受精卵にマイクロインジェクションを行うことによりトランスジェニックマウスを作製した。これらをAli18系統と交配させて表現型レスキューを試みたが、炎症性関節炎が抑制される結果は得られなかった。この結果については様々な要因が考えられたが、遺伝的背景に存在する修飾遺伝子の効果により候補領域の境界を判定する組換えが正しくない可能性が考えられた。そのため、修飾遺伝子の抑制効果に影響されない組換えを指標として候補領域を再度規定したところ、当初の2Mbの領域であることが判明した。この領域について、候補遺伝子を文献より絞り込むデータベースであるPosMedを用いて検索を行ったところ、数個の遺伝子がピックアップされた。それらの遺伝子のエクソンをはさむようにプライマーを設定してPCRを行い、PCR産物をサンガー法により塩基配列を決定した。その中のひとつのエクソンにおいて、Ali18マウスのみでATよりGCへの塩基置換が認められた。また、この変異は様々なマウス系統の野生型において、多型がないことを塩基配列解析により確認した。さらに、この変異はアミノ酸置換を引き起こすが、そのアミノ酸は脊椎動物で高度に保存されていた。
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