本研究では特性遠赤外線CO_2インキュベーター(37±0.5℃)及び動物飼育装置(25〜27℃)を用いて、ヒトの舌癌、歯肉癌、外陰部癌、肺癌、肝臓癌、乳癌細胞に対する遠赤外線の影響について研究を行い、癌細胞の増殖抑制効果とそのメカニズムを明らかにしてきた。更に、マイクアレー法を用いて、遠赤外線に反応する遺伝子の発現を解析した。この結果から、遠赤外線により強く増殖が抑制される細胞に共通の遺伝子がATF3であることを見いだした。そこで、本年度はATF3遺伝子を組み込んだプラスミドを外陰部癌A431、舌癌HSC3、歯肉癌Sa3細胞に導入して過剰発現細胞を作製し、増殖活性への影響について解析した。その結果、全てのATF3遺伝子組み替え癌細胞で増殖が抑制されることが明らかになり、舌癌HSC3と歯肉癌Sa3細胞で細胞の膨潤変化が認められた。また、siRNA法を用いてATF3遺伝子の発現を抑制して、遠赤外線が増殖に与える影響を解析した。その結果、舌癌HSC3細胞に関して、遠赤外線による増殖抑制効果は阻害されることが明らかになった。これらの結果は遠赤外線が癌細胞の増殖を抑制する作用機構の重要な起点にATF3が関与していることを示唆している。つまり、細胞には遠赤外線に対するレセプターが存在して、ATF3がその伝達因子である可能性が高い事を示している。従来から低温での遠赤外線の効果はその実体が明らかにされていなかったが、本研究では、遠赤外線のような弱い物理エネルギーの作用もATF3が関与するレセプターを介して確実な作用として引き起こされる事が初めて明らかにされ、非常に画期的で重要な意義を有している。この発見により、将来的には遠赤外線効果をもたらす薬剤の開発や遠赤外線効果の臨床応用が可能になるものと考えられる。
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