研究概要 |
昨年度の準備のもとに,本年度はバイオフィードバックに直接関係する2種類の実験を行った。ひとつは,バイオフィードバックの「気づき」に関連するもので,内的な未解決感が何らかのきっかけで一挙に解決する現象(いわゆる「閃き体験」)を扱った。視覚的に提示された2課題(アルファベット並べ替えによる単語形成,および複数熟語に共通する伏漢字の発見)を研究協力者に課し,課題遂行中の脳神経活動をfMRI装置により測定し,それと課題遂行成績との関連を調べる方法により,閃き現象に付随する脳活動部位を推定した。その結果,大脳視覚領野,手指関連運動野,前頭前野,前頭極,眼窩前頭野などに活動が検出されたが,前2者は課題遂行自体の行動に関係するものであり,後3者(いずれも前頭野)が心的操作に関連するものと判断された。とくに眼窩前頭野の活動は閃き体験の回数と相関が高く,一連の心的操作上で重要なはたらきをしていると推測された。一方,皮膚温バイオフィードバックを研究協力者に行わせた場合の,訓練中における脳神経活動を,やはりfMRIを用いて測定した。末梢皮膚温(具体的には左手示指末節)の時間経過を研究協力者前面のスクリーンに表示し,それを手がかりとして温度を上げる(あるいは下げる)努力を行うよう指示した。多くの場合,3回目程度で意識的温度制御に関する「気づき」感が得られる傾向にあった。バイオフィードバック訓練中の脳活動部位は個人により多様であり,必ずしも統一したパタンが得られなかった。これは個人ごとに学習方略が異なることに由来すると考えられる。そのため,データ解析は個人ごとに経時的に,内観報告を絡めた形で追跡する必要があるとともに,適性の問題から,研究協力者の数を増やす必要もある。翌年度は,このような問題点を勘案しつつ,実験例を増やす予定である。
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