本研究では、生体外において造血系細胞を効率的に増幅できる培養系を確立することを目的として、固定処理や凍結保存処理したストローマ細胞と造血系細胞との三次元培養実験を行った。この際、ストローマ細胞の処理方法が各種造血系細胞の増幅効率に及ぼす影響について検討した。 実験では、ストローマ細胞(DAS104-8細胞株)を三次元培養担体(polyvinyl foma1樹脂多孔質体)に播種して2〜7日間培養したのち、担体上のストローマ細胞を固定処理、または三次元凍結保存処理した。その後、処理された細胞を含む担体にマウス胎仔肝臓細胞を播種して2週間培養することによって、胎仔肝臓細胞中の造血系細胞を増幅した。 本年度は、固定剤に有機溶媒(メタノール、アセトン)を用いてストローマ細胞を固定処理した。これちの細胞を用いて胎仔肝臓細胞中の造血系細胞の増幅を試みたところ、胎仔肝臓細胞中の造血前駆細胞(c-kit陽性細胞)や造血前駆・幹細胞(CD34陽性細胞)は、メタノール固定では6〜7倍、またアセトン固定では12〜18倍に増幅された。これらの値は、対照である三次元凍結保存処理した細胞を用いた場合と同等以上であり、前年度に実施したグルタールアルデヒド固定処理の場合(3〜5倍)よりも高かった。 以上の結果から、固定処理したストローマ細胞を用いることで、死滅したストローマ細胞の表面分子を利用して造血系細胞を増幅できることが明らかになった。また、固定法としては、アルデヒドと有機溶媒のいずれを用いた場合にも造血系細胞を増幅できるものの、アセトンを用いた場合に最も高い増幅率が得られた。今後は、固定方法の安全性も含めて評価することで、簡便な造血幹細胞の増幅方法を確立できると考えられた。
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