研究概要 |
平成19年度は,オクチル酸スズを開始剤として,D-ラクチドとL-ラクチドを開環重合することにより,重量平均分子量が10万以上の高分子量のポリ(L-乳酸)(PLLA)とポリ(D-乳酸)(PDLA)の合成し,再沈法により精製を行った。両ポリマーを溶融状態で混練し,成形することによりブレンド試料を得ると,熱分解による低分子量化が起こり,力学的特性が低下する。本研究では,これを避けるため,室温付近における溶媒キャスト法を用いることによりブレンド試料を作製し,通常の方法では良好にステレオコンプレックスを形成させることが困難とされる高分子量体PLLAおよびPDLAとのブレンドにおいて,ステレオコンプレックス形成を促進する条件を検討した。沸点(蒸発速度)の異なる種々の溶媒を用いて,室温付近の一定温度でキャスティングを繰り返すことによりブレンド試料を作製し,示差走査熱量分析(DSC)および広角X線回折法(WAXS)を用いて,ステレオコンプレックス結晶化度およびホモ結晶化度を評価することにより,溶媒の種類とキャスティングの反復回数が,ステレオコンプレックス形成に与える影響を評価した。その結果,溶媒の種類に依存せず,キャスティングの回数が増加するに従い,ホモ結晶化度は減少し,ステレオコンプレックス結晶化度は増加した。このことは,反復キャスト法が,高分子量PLLAとPDLAの間のステレオコンプレックス形成の促進に有効であることを示している。特に高沸点の溶媒においては,2回目のキャスティングでステレオコンプレックス結晶化度は著しく上昇した。これは高沸点溶媒の蒸発速度が他の溶媒に比べ非常に低いために,ステレオコンプレックスのみが形成される濃度領域を通過する時間が長くなったためであると推測される。
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