本研究では、平成12年度〜16年度の厚生労働科学再生医療ミレニアムプロジェクトで多施設臨床研究に使用した同種培養真皮の研究成果を基にして、新たに自家培養真皮の実用化に向けた基盤を構築することを目的としている。小児の重症熱傷の治療後に生じる瘢痕(引きつり)は成長に伴い機能障害を引き起こす。また、小児の巨大色素性母斑(真皮組織中の色素沈着)は社会への順応において精神的な障害を引き起こす。そこで、これらの皮膚疾患に対する新しい治療法を可能にする新規の自家培養真皮の研究開発を進めている。具体的には、マトリックスの最適な構造設計と最適な生体内分解速度の決定、線維芽細胞の最適播種密度と線維芽細胞が産生する各種細胞成長因子の定量、さらには、予備臨床研究により移植床形成の組織学的な観察を行う。平成20年度に明らかにした項目は下記のとおりである。1)自家培養真皮は手術日に合せて作成する。しかしながら、小児の場合、発熱等で直前になって手術日の変更が生じる場合が多い。これに対処するため、自家培養真皮の冷凍保存条件の検討を行った。凍結保存・解凍操作に耐えうるマトリックスの最適設計を行った。2)凍結保存・解凍後の自家培養真皮中の線維芽細胞の生存率および産生される種々の細胞成長因子を調べた。解凍後も血管新生に重要な血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の産生能力が保持されることを明らかにした。3)自家培養真皮の臨床応用において、自家培養真皮を適用した上に保護材として軟膏塗布ガーゼを使用する。軟膏塗布ガーゼに代わる新規の被覆材として上皮成長因子(EGF)含有ヒアルロン酸スポンジを開発した。培養系の実験で、EGFが培養真皮中の線維芽細胞に作用して、VEGFとHGFの産生量を顕著に高めることを明らかにした。自家培養真皮とEGF含有ヒアルロン酸スポンジの併用により、線維芽細胞の能力を最大限に発揮できる治療法の可能性が確認できた。
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