研究概要 |
収縮能が正常である心不全,すなわち拡張不全型心不全が運動耐容能やQOLを低下させ,生命予後も不良であることが明らかにされている.安静時での左室拡張能評価法は比較的確立しているが,運動時の拡張能変化,いわゆる運動強度に対する拡張能応答に関する評価法および知見は未確立である. これらに一定の知見を得ることを研究目的として当該年度における研究実施計画にのっとり研究を行ってきた.具体的には研究実施を以下に示す3段階で行い,妥当性のある左室拡張能評価法を検討した. まず健常者を対象として,運動負荷試験中での心臓拡張能評価を,これまで安静時にて行われてきた評価法(パルスドップラ法によるLV inflow計測)を用いて行った.その結果,嫌気性代謝閾値(AT)より早期にE/Aの減少(<1.0)を認める例があった.またその中の1名はATより早期にE波減速時間(DcT)の延長(>250msec)が認められた. しかし,この方法では運動強度増加に伴う換気量増加が明瞭な心エコー画像取得に大きな影響を与え,画像解析の再現性や妥当性に問題があることも明らかとなった. 次に,パルスドップラ法によるLV inflow計測とティッシュドップラ法による僧帽弁の弁輪後退速度を連続して交互に計測する方法で左室拡張能変化と計測法の違いによる取得情報の相違を評価することを試みた.その結果,E/AおよびDcTは運動強度増加とともに減少する傾向が認められた.E'は運動強度とともに増加したが,E/E'には一定の傾向は認めらなかった. 当該年度の研究計画に記載のあるように頚動脈エコーによるWave Intensityを用いた左室拡張能評価を試みた.頚動脈血流速度の時間徴分値と圧変化の時間徴分値との積で表現され,とりわけ2nd peakが左室拡張能を表現する.安静時と20Wエルゴメータ運動との比較を行ったが,心室脱分極を基軸として2nd peakまでの時間と2nd peakの大きさとはなんら相関を認めなかったが,1st peakから2nd peakまでの時間と2nd peakの大きさとは有意な負の相関を認めた. この知見は,左室収縮後の速やかな左室弛緩と左室拡張能との関連を示すものとして重要である.またこの評価法は今後の運動負荷中の拡張能評価を進めて行く上で有用な手法となる可能性があることを示す.
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