研究概要 |
左心室拡張能の評価方法はある程度のスタンダードが存在するが,拡張不全型心不全における心不全症状の発現は拡張能低下をより顕在化させる運動時においてであり,左室の収縮-収縮の時間が短縮する,すなわち有効な左室拡張時間が失われるために発現するものと考えられる.そのために運動時での拡張能応答の評価が重要である. (1)健常者を対象に,Ramp運動負荷試験中での心臓拡張能評価を,パルスドップラ法によるLV inflow計測と組織ドップラ法による僧帽弁の弁輪後退速度計測を交互併用して行った.プロトコールは一昨年度の研究成果に沿って,臥位エルゴメータ上で5分間の安静,その後20W3分のウォームアップ,続いて20W/minの勾配でRamp負荷を行った.呼気ガス分析による代謝測定および聴診法による血圧測定を同時に計測した.取得した画像データをデジタル処理して解析を行った. (2)LV inflow計測においてE-valueおよびA-valueは運動強度の増加とともに穏やかな正の相関を示し,E/AratioおよびDcTは運動強度増加とともに穏やかな負の相関を示した.組織ドプラ法によるE'は穏やかな正の相関を示したが,E/E'は運動強度の増加に対する明らかな相関は認められなかった. (3)運動強度増加に対する各拡張能応答指標の変化,すなわち1次回帰直線の傾斜とATにおけるVO2との関係でE-valueと有意な相関を認めた.一方,拡張能指標の各値における安静値と1次回帰直線のy切片とで大きく解離する現象を示すものが散見された.またAT付近で左室拡張能指標変化に明らかな変曲点が存在する例が認められた. (4)以上の結果は健常者における心拍出量増加に対する良好な運動応答として解釈することができる.一方,運動代謝との関係では,ATにおけるVO2と左室拡張能と有意差は認められなかったが,乳酸代謝との関連で心筋の拡張能に何らかの影響を与えている可能性が示唆された. (5)拡張不全型心不全は,前述のように運動時において心不全症状が顕在化するために,拡張能応答変化を運動時に評価する必要がある.今回は健常者を対象に行った研究であるが,これまでの運動時拡張能指標の有効性にはまだ課題が多い.
|